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大阪地方裁判所 昭和37年(ワ)1725号 判決 1965年3月05日

原告

高塚正夫

原告

高塚明代

右両名代理人

江谷英男

被告

前田建設工業株式会社

右代表取締役

前田又兵衛

右代理人

竹中龍雄

主文

第一、被告は原告ら各人に対し各金一、〇五七、七七九円あておよびこれに対する昭和三七年五月一六日より完済までそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

第二、原告その余の請求を棄却する。

第三、訴訟費用は三分し、その二を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

第四、この判決第一項は仮に執行することができる。

第五、ただし被告が各原告につき、それぞれ金一、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、右各原告の仮執行を免がれることができる。

事実

第一、原告の本訴申立

「被告は原告らに対し、それぞれ金二、四九八、九一八円あておよびこれに対する昭和三七年五月一六日より完済までそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。」

との判決および仮執行宣言。

第二、争いない事実

一、本件事故発生

発 生 時 昭和三六年九月一一日午前六時四〇分頃

発 生 地 高槻市郡家東郷七一六番地先路上附近

事 故 車 被告所有 小型四輪貨物自動車 四に一四一四号(以下ただ自動車という)

運 転 者 被告雇用の訴外福士昌徳

受傷死亡者 亡高塚定信(被告雇用、自動車荷台に同乗中)

態   様 訴外福士は右路上を東進中、道路右側の田地内に転落、転覆し、そのため亡定信は自動車の下敷となつて右側骨々折のため間もなく同所で死亡した。

二、責任原因について、

被告は土木建設業を営み、右保有車を事業のため所謂運行の用に供していた。

三、権利の相続について

亡定信は原告らの実子であるところ、その死亡により、原告らは父、母としてその権利義務を法定相続分の二分の一あて承継した。

四、損益相殺について

原告らは自動車損害賠償保障法に基く保険金五〇〇、〇〇〇円、労災保険による遺族補償費として金六三一、〇〇〇円、合計金一、一三一、〇〇〇円の支払を受けた。

第三、争点

一、原告の主張

(一)、責任原因について、

本件事故は左のように訴外福士の過失により発生したもので、被告は自動車損害賠償保障法第三条により、原告らに対し損害賠償の責に任じなければならない。

すなわち訴外福士は、事故直前道路中央よりに対面歩行してきた二、三名の通行人を避けようとしてハンドルを右に切り道路右端附近に出た、ところで同車の構造は運転台下に前輪が位置し、運転にも不馴れであつた上、右下二・五メートルは田地となつており道路へりに草が茂り、道路脇の見分けが困難な状態であつたから、側方に注意して、ハンドルの操作を適確に行い、田地への転落などの危険発生を予防すべきであつた。しかるにその予防措置を怠り、右草むらに右車輪を乗り入れたまま漫然進行したため、さらに約三〇メートル前進した際、右前輪が草などでスリツプし、車体が右に傾きはじめた。そこで訴外福士はあわててハンドルを左にきり車を道路中央に戻そうとしたが及ばず、ついに転落、転覆の結果となつたものである。

自動車は当時被告の作業員を運搬するために使用されていたものである。

(二)、損害の発生

本件事故により生じた損害は別表その一、「損害明細」のとおりであるが、その算出上特記すべき点は左のとおりである。

得べかりし利益について

1、亡定信は中学校卒業後、大工職としての修行をつみ、一人前の大工の腕をつけてから、死亡当時被告に大工職としてやとわれ、平均賃金一日金一、一三一円の収入があり、その支出は、源泉課税、失業保険金、健康保険金、食費雑費を入れて平均一日金二七七円であつた。従つて同人が死亡により失つた得べかりし利益は右差引一日平均金八五四円となる。

2、亡定信は当時二六才で、第九回完全生命表によつても同人の平均余命は四一、一九年であるから、少くともなお四一年間、毎月二五日以上は稼働し得た筈である。

3、右期間の得べかりし利益の現価をホフマン式算定法により算出(年利五分)すると、合計金五、六二八、八三六円となる。

慰藉料について

4、原告らは農業を営み、男五人、女一人の子を有して平穏な生活を送つていたが、亡定信は次男であるところ、長男頼寿が東京に出ているため原告らの祭祀の相続人として原告らの老後を托すことになつていた。故人は極めて健康明朗で親孝行、兄弟思いで、精神的にも一家の中心的存在であつた。

従つて故人の突然の事故死により、原告らの失望落胆は言語に絶するものがあり、その慰藉料は各人金二五〇、〇〇〇円を相当とする。

二、被告の主張

(一)、本案前の抗弁

原告両名は江谷弁護士に本件提訴を委任した事実がないから、本件訴は却下さるべきであり、訴訟費用は授権の証明なき無権代理人である江谷弁護士の負担とすべきである。

(二)、本案について。

1、和解成立

本件事故に関する紛争については、原告正夫とは昭和三七年一月九日に、原告明代とは昭和三七年三月七日、それぞれ被告との間で和解が成立している。すなわち、第二の四の合計金一、一三一、〇〇〇円ならびに葬祭料金六七、八六〇円合計金一、一九八、八六〇円を以て本件事故に関する原被告間の解決金とすることに、両者に完全な合意が成立し示談書も作成されており、原告らは被告に謝意こそ表すれ、何ら異議はなかつた筈である。従つて本件提訴は原告らの長男頼寿の右和解、ならびにその成立の経過を無視した使嗾によるいいがかりというの外ない。

2、損害賠償債権について

(1)、責任原因について

所謂共働者の原則を適用すべき事案で被告は不法行為法上の使用者乃至運行者の責任を負わない。

(い)、本件事故は被告が請負つた名神高速道路茨木西高槻工区の工事中、亡定信が通勤道路の存在を無視し、近道するため、常々被告がきびしく上乗りを禁じている型枠運搬専用の貨物自動車の荷台に乗込んだために発生したもので、いはば接触禁止の機械に従業員が業務命令に反して起した事故と同断である。従つて民法第七一五条の「第三者」にふくまれない。

ちなみに工場労働者が機械の操作を誤つて負傷した場合は労災補償かぎりであるのに、共働者の過失が加わつて負傷した場合には、その上に民事上の損害賠償の責任が加算されるのは結果的にも均衡を失する。

(ろ)、使用者責任の法意を考えてみると、元来企業が社会上の一構成単位としてその企業活動上対外的な加害行為をした場合にその責任を負うのが本質であつて、企業内部に包摂される者内部間においては第三者に当らず、その内部間の規律と扶助に委ぬべきである。

ところで従来、従業員の過失によつて同一会社内部の他の従業員が負傷した場合にも使用者責任を適用したのが我が国の判例の解釈であるが、これは、従前労災補償など工場等労働者の保護扶助の制度、規定の極めて不完全だつた労働事情、社会事情を踏まえた歴史的な理由に基く、文理上の拡張解釈にすぎない。従つて、今日世界的な水準に改善された我が国の社会労働事情においてなおその解釈を墨守することは、沿革を無視した、頑なな文理解釈の維持という外ない。

ちなみに、右工区における賃金総額は二億九、九〇〇万円余のところ労災補償保険法第二五条、第二六条に基く昭和三六年度の納付保険料は右賃金総額の五・九パーセントに当る一、七六六万円余であつた、事故皆無の場合にかぎり、右保険料の二〇パーセントが返還されるけれども、ともかく工事毎に多額の保険料支出を余儀なくされ、使用者責任の一根拠たる報償責任は、右保険料の支出により潜在的事故を対象として高度に果しているものというべきである。

なお被告は別表その二のとおり葬儀に関する費用金九一、五二六円を負担して手当をつくしている。

(は)、従つてまた、仮に本件事故につき、使用者責任ありとしても、少くとも労災保険法第三条により強制適用を受ける事業主はその責任を法定の補償額の限度にとどむべきである。

労働基準監督署の行政指導のもとに事業内部の事故はすべて労災補償額を限度として処理している業界の慣行は右趣旨を正しく示しているものというべきである。

(に)、右と同様の趣旨により、本件事故につき亡定信は被告企業内部の者であつて、自動車損害賠償保障法第三条の他人には当らず、被告はその運行者としての責任を負うべくもない。

(2)、過失相殺について、

かりに百歩を譲つて、被告に使用者乃至運行者の責任があるとしても、前叙(1の(い))のとおり、被害者である亡定信に重大な過失があるので、賠償額の算定につき斟酌されるべき事案である。その過失相殺の適用の結果は、既に給付充当を受けた労災補償、自動車保険金額を以てしてすでに損害の填補は多きに過ぎ、なお被告が負担すべき賠償額は存しない。

なお、本件被害者亡定信は被告が事故半月前の同年八月二四日に同年一一月末日までの契約で雇入れた、日給による臨時的被用労務者である点も十分考慮されねばならない。

第四、証拠<省略>

理由

第五、争点に対する判断

一、本案前の抗弁は理由がない。

本訴提起後、原告正夫が被告代理人を宛名として、原告らが訴訟の意思のない旨をしるした書面(乙第三号証)が存在するけれども、これは昭和三七年五月から六月にかけての頃、被告方工事事務所事務主任であつた栗原寛治が訪れた上でのたつての慫慂により作成して同人に交付したもので文言の真意についても疑念をぬぐいきれない。

(資料<省略>)

そしてその後、原告正夫は第七回弁論期日(三八年六月五日)に、原告明代は第九回弁論期日(三九年六月一一日)において、何れも本人として訊問を受け、訴訟追行の意思を明らかにしているので、右書信も原告代理人に対する本件訴訟委任の欠缺を示すものとはいえず、従つて本案前の抗弁は理由がない。

補説するに、仮に訴提起当時、被告主張のように訴訟委任の欠缺があつたとしても、後に当事者の追認があれば、提起に遡つて授権の効力を生じ、訴の要件を充足するものであること、民事訴訟法第五四条、第九八条によつても疑義を生ずべくもなく明らかなことであつて、本案前抗弁の維持は、訴訟の経過を無視したものという外ない。

二、本案について

(一)、和解の成立

被告は、本件事故に関する原被告間の紛争につき、和解が成立している旨主張するけれども、左のように、和解の成立は認められない。

先ず少くともつぎのような事実が認められる。

(イ)、左のような趣旨の条項を記載した示談書(乙第一号証)が存在する。

a、被告会社茨木作業事務所は亡定信の相続人に対し、①葬祭料として金六七、八六〇円(平均賃金一日一、一三一円の六〇日分)、②遺族補償費として金一、一三一、〇〇〇円(右平均賃金の一、〇〇〇日分)の合計金一、一九八、八六〇円を支払うこと。ただし右②の償補費は安田海上火災による自動車強制保険金および労災保険金を以て支払にあてる。

b、右当事者間の間で本件事故につき今後双方とも異議申立、告訴、告発などしないこと。

(ロ)、示談書作成名義の当事者の一方を原告両名とし、他方を「茨木市所在の前田建設茨木作業事務所、所長刑部秀利」とし、被告名義の顕名もなく、被告の右所長に対する授権の表示もない。(ちなみに欄外には、当事者が法人のときは法人名とその代表者名を記入せよ、との不動文字がある)

(ハ)、示談書は記載事項欄および前項b項趣旨の文言などを不動文字化して印刷された、用紙に記入して作成されたものであり、原告明代の氏名を除く記入はすべて、被告の右事務所庶務係、横渡実が昭和三七年一月九日頃までに事務所内で書込んだものである。

(ニ)、原告ら名下の印はいずれも原告らのものである。

(ホ)、原告明代の氏名は昭和三七年三月七日頃、原告方を訪れた右事務所労務係林幸男が原告方で記入したものである。同原告の印も同日頃、同じ原告方で押印されたものである。

(ヘ)、原告らと、被告の右事務所従業員らとが、本訴提起前に会合しているのは、事故直後原告正夫が、高槻市在の万徳寺で被告方が施主としてとり行われた葬儀参列のため出向いた際と、右林が原告方を訪れた際の二回かぎりであるが、二回とも、その間に本件事故に関する被告の責任の有無などについての相互的な折衝はなかつた。

すなわち、前者葬儀の際の出会においては自動車賠償保障法の保険と労災保険金とが給付になるとの右事務所従業員の説明があつて、原告正夫がこれを納得したにすぎず、後者原告方訪問の際は右保険金の受領確認が主なる話題であり、事務的な手続に関する話合いであつた。また書面の往復による右趣旨の交渉も勿論なかつた。

(ト)、右二回の出会いを通じ、また示談書作成、記入の際にも前記林、横渡など被告の右事務所従業員は本件のような事故については、労災保険金(自動車に関する場合には自動車強制保険をふくむ)の給付以外、被告の責任が生じようとは夢にも考えておらず、示談書作成も労働基準監督署からの示唆乃至指示に基いて事務所の事務的な処理として作成したものである。

(チ)、示談書作成後(作成日付は昭和三七年一月九日)である昭和三八年四月一八日に行われた本件事故の運転手福士昌徳にかかわる刑事事件の第二回公判廷において、右示談書作成のいきさつを事務所の係から聞き連絡の上証人として出頭した被告工事区飯場の寮長押井源蔵が、まだ原告らと被告との間に示談が成立していない旨証言している。

(リ)、原告らは自動車強制保険金、労災保険金の給付を受けるために必要なものとしてその印鑑を昭和三六年内に右林にあずけ、その印鑑は林から右横渡に手わたされ、右事務所に一ケ月余おかれていた。

(ヌ)、原告らは辺地に埋もれた善良な田舎の人のうつくしいまでの愚直さで、被告の従業員らと接し、その口の端々から伺える企業乃至官署などのメカニズムの存在、動きに畏懼の念をいだき、取敢えず原告らの手にわたるべき保険金の給付手続に携わる人々の気色を損じまいと小心翼々として儀礼の念に心をくだいていたし、また亡定信が被告方に就職するについて斡旋の労をとつてくれた同郷人二宮盛雄(当時被告方勤務)の被告方での立場を傷つけまいと意識を働かせていたので、被告従業員の事務的な指示には終始唯唯諾諾として従つていた。

(ル)、原告らは提訴当時まで具体的に損害の数額被告の責任の有無、所在を考えたことがなかつた。

(資料、<省略>)

右事実を総合すると、示談書(乙第一号証)作成当持、原告らと被告乃至示談書の作成名義人である茨木作業事務所長刑部または横渡、林など被告側従業員との間に、和解の前提たる争い即ち本件事故についての被告の責任、損害の数額等についての紛争交渉の経過がないし、また示談書自体にも、少くとも原告らにおいて、被告との間に本件事故に関する不法行為(自動車事故責任をふくむ)法上の損害につき前示(イ)のaによる填補のほか一切被告に対する請求を放棄する旨の明示を欠くのみならずその旨を諒承した上で作成されたものとも認められない。原告ら名下の押印については本件立証のかぎりにおいては、証人林の再度におよぶ供述も、原告本人両名のこれに反する供述ならびに(ヌ)の事実などからして、原告ら自ら押印に及んだものかどうか俄かに得心できないところであるが、仮に原告ら自ら押印したものとして右各事実から右認定に変りはない。

示談書に被告の顕名がなく、その作成名義人である作業事務所長刑部もまた弁論の全趣旨から監督者として被告とは別個の不法行為上の責任の主体となり得ること、また、示談書記載の補償総額が後記認定のような本件事故により発生した亡定信、原告らの損害額に比し少額にすぎ、しかも殆んど保険金額の範囲をいでず、恰も被告の無責が前提となつているように解釈されること、などの事実も、右和解が成立していない旨の認定を証左するものといえよう。

前掲証人林、栗原、押井の供述中には原被告間に示談成立した旨の表現があるけれども、前後の叙述からしても、それは保険金請求給付受領の間の手続についての詳細な説明について原告らが納得し、被告方従業員の手続上の労を原告らが礼議厚く謝していたことを意味するにすぎず、前示(イ)乃至(ル)の事実からして、文言どおりに和解成立を証するものとは到底認められない。

従つて示談書(乙第一号証)は被告方の悪意に出た作成とは認められないけれども、たかだか保険金受領を確認すること以上の効力を有するものでなく、原告らもその趣旨においてしか右示談書を読んでいなかつた(前旨(ホ)の事実から、示談書が原告らの眼に触れていることは疑いない)ものとするほかない。

結局和解成立の抗弁は採用しがたいところである。

(二)、自動車事故責任について

1、責任原因

(1)、本件事故は原告主張(第三の一の(一)、ただし自動車の使用目的をのぞく)のとおり訴外福士の過失により生じたことが明らかであるから、被告は運行者として(第二の一、二により)、亡定信、原告らに生じた損害の責を負わねばならない。

(資料、<省略>)

(2)、被告の共働者の原則の主張は採用できない。

自動車事故による運行者の責任は、自動的で意志をもたない機能のすぐれた機械の本質上、放置乃至誤用があれば人に対し極めて危険な自動車の走行使用に関し、経済的社会的に最も強い管理制御の力を及ぼす実質上の支配者に管理使用上の責任を負担せしめたものであつて、企業利益を共有する共同事業者乃至それに準ずる関係にある者ならばともかく、少くとも日給を以て労務を提供する一介の労働者である亡定信と被告との間に共働者の原則を適用し得べくもなく、まさに亡定信は自動車責任上の他人に当るというべきである。

たまたま、英米法上、共働者の原則の存在が同地における工場労働者の災厄保険制度の促進にあずかつて力あり、また我が国で企業内部の従業員も使用者責任における第三者に当るむねはじめて判旨した当時、右判決が労災補償などの諸制度が不備であつたわが国の労働者保護の役割を果した事実があつたとしても、現在労働者保護の社会保険制度が発達の途上にあるからといつて因果関係を逆転せしめて共働者原則の適用、使用者責任の第三者の範囲の縮少をはかるべき理由は全く存しない。むしろ資本主義社会の発達によつて労働者は、使用者に対する第三者の色彩を強くして行くのが実情である。

また労災保険の強制適用を受ける事業主の責任は保険金の給付限度にとどむべしとの被告の論拠たるべき法条も存しないし、右有限責任の根拠としてのべる高額の保険料と称する本件事故発生の工区における被告納付保険料金一、七六六万円余は、事故如何によつては人の死亡による損害をも或いは補うに足り得ないような数額のものであつて、しかも直接被告の亡定信、原告らに対する法律的関係にないから、被告のこの点に関する主張も検討するに値しないものである。

2、損害の発生

(1)、亡定信は死亡当時二六才であり、平均余命は四三・九六年(厚生省昭和三七年度簡易生命表)であるから、その大工職の仕事の性質上少くともなお四一年間は就労して、少くとも一日平均金一、一三一円を下らない収益をあげ得た筈であり、同人の生存した場合の一日平均の必要経費は右収益の水準においては金二七七円を相当とすべく、従つて、別表その一「損害明細」の1の計算による得べかりし利益の損失(五、六二八、八三七円の計算ちがい)が認められる。原告らは両親として右総額金五、六二八、八三七円を法定相続分により二分の一あて相続することとなる。

(2)、亡定信は極めて親孝行で、長男頼寿が頼りないため将来原告らの家の祭祀の相続人としてその老後を托すべき精神的支柱と頼つていたのに、本件不時の死亡により原告らの失意落胆は言語に絶するものがあり、原告らの慰藉料は各人金五〇〇、〇〇〇円を下らないものと認められる。

(3)、そうすると原告らの相続分ならびに固有分の損害は各金三、三一四、四一八円あてとなる。

(資料<省略>)

3、過失相殺

亡定信は事故当時宿舎から工事現場への通勤歩行道路もあり、被告会社の監督者からトラツクの上乗りを禁ぜられていながら、警察の所定の許可もない本件トラツクの荷台に、その大きさに比して九名位の大人数で同乗した(ただし運転手は同乗を制しなかつた)過失がある。本件立証上反証は存在しない、右過失により亡定信、原告らの損害額につき二分の一を相殺すべきである。

(資料<省略>)

そうすると原告らが被告に請求しうべき相続分、固有分をあわせた損害額は各金一、六五七、二〇九円あてとなる。

4、損益相殺

自動車強制保険金ならびに労災保険による遺族補償の給付計金一、一三一、〇〇〇円の損害充当(第二の四)のほか、第五の二の(一)の限度における乙第一号証 (示談書)の存在と、弁論の全趣旨により被告から原告らに対しさらに葬祭料として金六七、八六〇円が支払われているものと認められるので、合計金一、一九八、八六〇円(原告各人につきその二分の一の金五九九、四三〇円あて)を右認定額からさらに相殺すべきである。

従つて原告らの請求し得べき金額は各一、〇五七、七七九円となる。

第六、結論

そうすると、原告らの請求は主文第一項掲記の自動車事故による損害金と、それに対する本訴請求後の遅延損害金の限度で理由があり、その余は棄却すべきである。

訴訟費用につき、民事訴訟法第九二条(和解についての被告の抗弁に関する点も斟酌した)仮執行に関する宣言につき、同第一九六条を適用した。(舟本信光)

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